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第一章 北九州から世界を揺らす  振動源「ユーラス」の誕生と発展 4.コンクリート打ち込み作業の革命 型枠振動装置 (ARV)の開発・発展・衰退

2025-07-01
[ユーラスとともに40年]
 さて最初に取り組んだこの土木・建築分野への振動応用であるが、前節で述べたように、初期の振動くい打ち機である程度は成功しかかったものの、環境問題の障害もあって挫折し、小形くい打ち機の他は、その後は長い間まとまった需要は見込めない状況であった。
 東京の下町のある町工場から電話がかかってきて、相談したいことがあるという。新しい話はこういう形で出てくることが多い。 この時期になると、ユーラスは業界では全国的に有名になっていた。(昭58年(1983)頃)
 訪問してみると、工事現場で使用されていて、故障で返却されてきたらしい。小形の振動モータが、狭い工場敷地に足の踏み場もない位に転がっていた。自社で制作している製品が、修理で帰ってきたものだという。そこで社長・専務親子のこれまでの経緯を長々と聞かされた。
 要するに型枠にコンクリートを打ち込む際に、現在の工法では、流動性が悪くて隅々まで行き渡らず、また十分に圧密されていないので、出来上がったコンクリートの躯体の強度が弱く、表面も綺麗でないと言うことだった。
 振動モータの使用目的は、 型枠に振動をかけてコンクリートの流動性を増し、さらに固く突き堅めようというものであった。それまでの工法は流動性を増すために若干水分を多くし、さらに添加剤を混入し、打設直後に流し込んだコンクリートの表面から棒状のエア -バイブレータで、人力で突き固めるという方法で、これは現在でもそのまま続いている。話の内容から、今後の大きな経営上の柱になることが予想されたので、早速希望の仕様に沿って試作機を製作し納入したところ、大いに気に入られて、大量生産に入った。振動源本体は標準のユーラスに比べて高い振動数を要求されるので、専用のユーラスの他に発電機、型枠への取り付け金具が必要となる。一時期は小形にも拘わらずこれらのセット販売、大量受注で結構売上高が伸びて大成功だった。我々も大いに張り切って、側面から設計事務所・建設会社へのPRを続けた。主として都内の公共建物に適用され、このまま行けばさらに大きな広がりが期待されたが、結果的にはいろんな原因が重なって徐々に衰退して行った。私は現場で働く型枠工がこの新しいやり方に反対したことが大きな原因だったと考えている。新しいことを成功させ定着させるには、努力と忍耐の他にどうしようもない事があると言う事を改めて痛感した。
<1-4挿話1> 型枠の匠への挑戦状 振動工法で型枠工も戦々恐々
 コンクリート建築物の施工に於いて、「型枠工」は建築現場では大きな権力を持っていると聞いている。堅牢なコンクリート躯体を得るために、型枠に振動を与えることはそれ自体としては、非常に有効で正しいことと今でも信じているが、そのために従来の型枠作業が非常に難しくなることは否めない。型枠の組み立て作業が不備で、少しでも弱いところがあると、振動をかけることにより、従来は問題にならなかったような箇所から流し込んだコンクリートが漏れたり、型枠自体の破損が生じる懸念もある。型枠工達はテストの段階ではしぶしぶ協力してくれたが、これが本格的に採用されるとなると、工期の遅延、工数の増加などのコスト高要因が出て来ることが予想された。 当時からコンクリートの寿命に関しては警鐘が鳴らされていたが、そのまま現状維持で押し切られた形になっている。
 ここ数年、新幹線のトンネル事故を初めとしてコンクリートの寿命に関連した事故が多発している。報道されている限りでは、純粋に化学的な原因に因るものが多いが、そのうちの何割かは打ち込みの際の充填作業の不備が原因になっていると私は考える。
 話は遡るが、昭和28年に安川電機の本社ビルが、当時では珍しく外国の著名な建築家の設計で建設された。コンクリート打ちっ放しの外壁で、いろいろ外野席からの批判もあったが、今となってみると、その外壁面の地肌は50年たった今でも結構良い線行っているのではないかと思う。その頃は丹念な打設作業であったに違いない。
 世界的な建築家である安藤忠雄氏によると、日本の建築が世界的レベルから見ても優れている点の一つは、設計者の要求通りの難しい形状のコンクリートの躯体が、正確に、しかも美しく実現できることで、このため、最近の建築物にはコンクリートの打ちっ放しの外壁が多いと言うことである。これは型枠工が欧米に比べて優れた腕を持っているから だと言うことを話しておられた。しかし施工の際の手抜きがあれば、耐久性に問題が出ることは明らかだろう。
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