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第一章 北九州から世界を揺らす  振動源「ユーラス」の誕生と発展 2 .「男女同権夫婦」 より 「亭主関白」  2台同期運転の 「あや」

2025-05-01
[ユーラスとともに40年]
 ユーラスの応用分野を広げるために、複数台を組み合わせて多くの運転特性テストを行う中で、2台を向かい合わせて取り付け、お互いに逆方向に運転させると、その合成の振動軌跡が直線になる事が確認された。その可能性はある程度予想されて居たことだが、交流モータは、2台を同じ条件で運転しても特性が微妙に異なって、回転数がずれたり、お互いの相対位置(つまりアンバランスウエートの重心方向) が少しずつずれてくる事も懸念されていた。(実際にテスト運転をするまでは大半の関係者がこのような先入観念をもっていた。)

 テストを繰り返した結果、2台の振動モータの特性が少々異なっても、正確な 「同期運転」が出来る事がわかり、さらに当時のK所長、H主研の理論解析に因ってこのことが裏付けられ、特許も成立した。
 その後この同期現象を取り入れて、直線振動を出すための専用機種として、2台のモー タを同一フレームにまとめた「双子形」 ユーラスが開発された。しかし、「双子形」ユー ラスには、加工・メンテナンス上の問題が多かった。それよりも、2台の標準形を同一ベ ースに取り付けて運転することは機能的には「双子形」と全く同じで、コスト、製品管理の点から有利であるとして、数年後には「双子形」の製造は中止された。振動応用機の主力製品であるユーラスフィーダでは、今でもこの2台の 「固定形」 を同一ベースに取り付けるのが標準の方式となっている。

 ちなみにこのように同一型式・容量のユーラスを2台で同期運転する場合、電気的特性が離れている組み合わせほど安定して運転できる事が、随分後になって確認された。特に回転数を電気的に変化させる「可変速」運転の場合に安定性が顕著であった。要するに片方が強力であればもう一方はこれに付いていくだけで安定した運転が出来るが、両方とも 同じ程度であれば抜きつ抜かれつで、運転は不安定になる。つまり、ユーラスの同期運転に関しては、男女同権夫婦的関係よりも、亭主関白的関係の方が安定している。
<1-2技説1> 腰を揺するフラフープ運動に隣も同調 2台のユーラスの同期運転
 一時期爆発的にヒットした「フラフープ」で遊んだ経験のある人は、腰をうまく揺する (単純な直線振動)だけで輪に回転を与える事ができた事に思い当たるだろう。 ユーラスの同期運転は2台のモータがこれをお互いにやりとりしていると考えればよい。
 しかし実際に運転して見ると同期の位相に2種類あることが確認された。2台を水平に並べて運転した場合、正常な運転状態ではお互いに逆回転しているアンバランス重錘の重心位置が内側と外側で、反対向きになって力を消し合うが、上下では同じ向きになって力を強めあう(片側の2倍) 位置に来ている。
 位相の事をさらに詳しく調べるために、アンバランスウエートの重心にマークを付け、始動から定常運転状態に至るまでの経過を高速度カメラで撮影して観察した。その結果、加速途中で、条件によっては、この2台のアンバランス重錘の重心位置が、片方だけが180度ずれて、いわゆる逆位相・横ぶれを生じる位置にくる事を確認した。
 初期に開発した「くい打ち機」では始動時にこの現象が生じていて、 直接開発にタッチしていた私は、この異常な揺れに何度となく肝を冷やしたものである。
 この始動時に位相逆転現象が起こる問題は、過渡的な現象で、またそれほど顕著でなかったために、同期理論では特に触れられていなかった。経験としては解っていても私個人の力では理論的に説明する事が出来なかった。
 この位相問題を理論的に解明されたのは、元九州工大学長の先生であった。当時機械力学部門の振動関係の世界的 な権威の一人だった。振動に関するいろんな相談相手として関係が深かった方で、個人的にも私の卒論指導をして頂いた。この位相問題に関する理論について安川電機の研究所にお出で頂いて講義をお願いしたが、一部の人をを除いて、これを解析したラグランジュの方程式は、殆ど理解されなかったのではないか。当然私も理解できなかった一人で、あ とで恩師に理解できなかったと話したら、半分笑いながら怒られた。
 しかしこの理論解析が出来たからと言って、実機に応用され、トラブルが解決されるものでもなかった。幸い(?)、その後は安川電機が「くい打ち機」の開発を断念したため、この逆位相現象に悩まされることはなかった。
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